現在人口23万人の春日部市。ベッドタウンとしての認知度が高いが、春日部にしかないもの・誇れるものがある。人口減少や高齢化などの「問題を抱えている事実も踏まえながら、春日部に住んでいる人、関わりが深い人の目を通して、さまざまな分野から春日部の魅力や可能性に目を向けていく。
4回目は、春日部在住の金工作家 平島鉄也さん、ガラス工芸家 佐々木淳さん、版画家として活躍する柿崎かずみさんの3人が、創作を通して感じる春日部や、今後のまちとの関わりなどについての対談をお届けする。
柿崎かずみさん(右上)、平島鉄也さん(右下)、佐々木淳さん(左下)
―――今日はオンライン対談ですが、よろしくお願いします。まずは、どのような作品を作っているか教えてください。
平島 自然や動物をテーマにしたアクセサリーやオブジェです。鋳金の勉強をしたので金工や、たまに木彫の作品も作ります。
佐々木 ガラス作品です。アクセサリーやオブジェ、ランプシェード、ガラスのペンなどを制作。元々はジュエリー作家だったのですが、ガラスに転向して15年くらいになります。
柿崎 版画を中心とした平面作品です。水彩画も描きますし、たまに粘土も使いますね。
―――春日部との関わりを教えてください。
平島 父親の転勤で、小学4年の時に長野県から移り住んできました。長野県で住んでいた場所は盆地だったので、グルッと一周山が見えましたが、春日部に来たら「山が無い!」とびっくりしましたね。遠くには見えますけど。
―――山、無いですね(笑)
平島 ザリガニがいたのにはびっくりしました。初めて捕まえたザリガニがコケむしていて、ボロボロだったんですけど、初めてのザリガニだから大切に育てました。
―――ザリガニ、たくさんいましたね(笑)。最近は分かりませんけれど。
平島 自転車で行けるところにカブトムシがいたり、釣りができたり、山が無いのにこんなに自然があるというのか!という印象でした。
佐々木 僕は、仕事に通うために、便利だったので十数年前に移り住みました。子どもが生まれて、春日部は良いと実感しましたね。のんびりしていて。
柿崎 私は、東武線沿線に住んでいました。東京や越谷、そして一人暮らしで武里団地に住んだことがありました。日当たりが良くて、駅近で環境が良い場所でした。その後結婚して、制作する場所も欲しかったので春日部に住むことになりました。都心にも近いし、でものんびりしていて。良い意味でアンバランスな場所だと思いました。
―――アンバランスとは、どういうことですか?
柿崎 商業施設や、飲食店などの有名店がたくさんありますが、ちょっと散歩に行くと、突然、田園風景が広がったりする。都会的な要素とのんびりした要素が一緒に存在している感じです。
――――なるほど、その通りだと思います。作家として作品作りをするようになったきっかけは?
平島 学校の美術や図工の時間が好きだったんです。勉強は嫌いだったけど(笑)。美術と図工は、遊んでいる感覚でやっていました。高校で、進路を決める時期に先生が美大を勧めてくれたので美大に行きました。子どもの頃から動物がずっと好きで、美大では、課題を与えられると動物の形を自然に作っていましたね。
佐々木 子どもの頃から粘土が大好きだったんです。石を拾ってきては遊んでいました。造形も好きで、彫金、その後ガラスに行き着きました。僕も生き物が好きで、作品のモチーフも生き物が多い。昔は今みたいに遊ぶものが無かったですし。
―――自然で遊んでいたのですね。柿崎さんはいかがでしょうか?
柿崎 小さい頃から、特に考えなくても絵を描いていました。描いている時は、没頭していて楽しかったですね。きっかけがあったというよりも、楽しくてやっていました。止まらないのでやっている感じです。
―――作品作りをすることが日常、という感じですね。
柿崎 日記ではないですけど、何か思いついたら、「こういうの描きたい」「作りたい」「見てみたい」と手を動かしています。
柿崎かずみ「me on my boat」
――――頭に何かが浮かんでいるのですか?
柿崎 頭にありますね。それにどうやったら近づけるのか、形にできるのか、その過程で自分が気付いていないことに気が付いたり、こんなこと感じていたのかと、描きながら確認したりします。それが日常。物を考えることと一緒で、物を考えることが絵を描くのと同義という感じです。
―――考えることと作品作りが同じですか!
平島 僕の作品作りは、絞り出す感じです。昔はパッと手が勝手に動くこともありましたが、最近は何を作ろうかと考えます。作り始めるとイメージが湧いてきて、もっとこうしようとか発展していくこともあります。一番辛いのは何を作ろうかと考えている時ですね(笑)。
――――そうなのですね(笑)。生みの苦しみという感じでしょうか。
柿崎 平島先生は、お題があったほうが楽だったりするんですか?
平島 そうですね。僕の作品にウサギの立体パズルがあります。ウサギがテーマの展覧会に出した作品で。動物は生態を調べるとヒントがありますね。ウサギは子だくさんだということにヒントを得て、面白い形をと考え、立体パズルを作りました。外からヒントをもらうと意外と面白い作品になったりします。
―――なるほど。佐々木さんはテーマがありますか?
佐々木 光と影を使って、それを意識して作っています。室内の暗い所で見たらこう見えるけど、太陽の光を当てるとこう見えるとか。陰影を使ったりして。作品は、今まで生きていた記憶の中の何かを作っている感じです。自分に残っている記憶で作る。
柿崎 すごく分かる気がします。
佐々木 記憶にあるものを作りつつ、生態を調べて帳尻を合わせていく。記憶だけだと誰にも分かってもらえない作品に成りかねませんから。
―――作品に込める思いなどはあるのでしょうか?
平島 僕は、動物とか自然環境がテーマです。科学や文明などの人間の世界の面白さなどと自然がお互いに調和が取れて健全であれば良いと思っています。でも、人間の行いは環境を破壊することもあって、それは残念。人間の進歩とか科学も楽しみつつ、自然も大切にできないかな、というのがテーマですね。後は動物の生態などの面白さなどを表現することもあります。
平島鉄也「調和―ザトウクジラ―」
佐々木 同じ感じです。後は、100年前、1000年前の地球の方がきれいだったかもしれませんが、そこに戻すのではなく、最先端と昔の良さのハイブリッドが好きですね。
―――現代と昔のハイブリッドですか、面白いですね。
佐々木 無くなっていくものもあると思いますが、それはそれでいいのかもしれません。一番は、水が重要だと思っていて。SNSに作品を載せる時は「#水を大切に」とハッシュタグを付けています。
佐々木淳「水」
柿崎 私は日常の中のもの、日常から感じるものですね。手で触って感じられるものから離れたくはないんです。ふとした時に感じることとか、普段生活していると、おざなりになってしまうような、忘れてしまうようなことも、拾い上げたり見てみたりすると面白いと思います。考え方の幅を狭くしないようにしています。やることに追われている時もあると思いますが、情報や動きのスピードが速くなっていると、点を目指して突き進んでしまう。そうではなく、頭を柔らかくして、ふとした、一休みした時にポッと浮かんだものを大切にしています。神様のプレゼント的な良い物があったりして、それを忘れず拾い上げたいと思っています。
―――日常生活の細やかなことが作品作りにつながるのですね。作品から、見る人に感じ取ってほしいことはあるのでしょうか?
柿崎 普段なら、視界に入っていても通り過ぎてしまうようなことでも、そういえばこんなこと感じたことあったなというように、見る人にほっこりしてほしいというのはあります。
平島 自分で作っている時にはテーマを目指して作るのですが、人は人それぞれで見るから、その人なりの見方で良いですね。僕の作品はコンセプトがはっきりしているので、コンセプトを説明することは多いですけど。例えば、カエルの作品を紹介した時に、「ああ懐かしいな、田んぼが周りにあって、捕まえたりしたのを思い出した」ということを言われたことがあります。その時、見る人によって作品の取り方が違うことに気付いて、それはそれでいいことだなと思いました。好きに見てくれればいい。自分にはテーマを課して、思いを入れますが、そこを見てもらうことよりも、人それぞれに気持ちよく見てくれたら良いですね。
柿崎 そうですね。
平島 感想を聞いて、あ、そんな見方もあるんだと面白かったりもします。
―――なるほど。見る側は、好きに見て、感じて良いのですね。
佐々木 僕は、自分が今まで経験してきた記憶で作品作りをしていますが、見てくれた人、買ってくれた人の記憶とリンクすると面白いです。例えば、僕がある島に行って、海がきれいだなと思って作った作品を、ドンピシャで同じ場所だと感じてくれたりしたらすごくうれしい。でも、どこどこの海に似てるとか、違う所でもうれしいです。
―――なるほど。お互いの作品を見て、感じることや思うことはありますか?
柿崎 どの方の作品でも発見があります。この時にこう感じたんだなとか、自分でも拾い上げた時が気持ち良いですし、楽しいです。
平島 佐々木さんも柿崎さんも、すごいの作るな、真似できないなと思います。だから、しょうがない自分のできることやるかと思います(笑)。
柿崎 平島先生がそれをおっしゃると…(笑)。
柿崎かずみ「野の花」
平島 無い物ねだりなのかもしれないですね。佐々木さんのガラスは即興だと思うんですけど、僕は間違えた線を消しながら直したりして作るので、佐々木さんの作品はすごいと思う。柿崎さんの作品は、子どもこういう線を描きそうだなと思うけど、僕にはそれが出せない。
柿崎 子どもと絵をかいていたら戻ります(笑)。
平島 それぞれの作家さんの表現は違うので、自分ができることをやるしかないですね。みんなが自分のできないことを表現しているから作品を見るのが面白い。だから、他の人の作品を見る価値があると思います。その人の制作する気持ちを垣間見るというか。
柿崎 そうそうそう。
佐々木 この人の頭の中どうなっているんだろうといつも思います。どうやって生きてきてこういう作品ができたんだろうとすごく考えます。作品を見た後にその人と話したくなる。
佐々木淳「時空」
柿崎 そうですよね。
佐々木 何が好きで何が嫌いだとか。実際に話をすることもあります。
―――生活しながら作品を作っている場所、春日部がこうなったらいいな、などのイメージはありますか?
平島 自然だけではなく、都会的な部分とかも、春日部では共存している。旧庄和町と春日部の間に工房があるのですが、商業施設ができ、開発されてきています。その間の自然環境をそのまま残したらいいんじゃないかなと思います。田んぼの担い手がいなくなっていますが、ホタルがいるとか、コウノトリが飛んできたら良いなと。難しいと思いますけど。公園もできたりして、そうなったら面白いですね。佐々木さんも言っていたけど、水が大切。水を何とかきれいにしていけば、ホタルも来ると思う。いろいろ勝手に妄想しています(笑)。
―――自然と開発の共存ですよね。
平島 家から工房に行く道で、いろいろな鳥を見かけます。カモ、カワセミ、イタチ、タヌキとか。川にはコイがいるのに、なにしろゴミが多いので見てられなくて、誰も掃除していない川のゴミを拾っています。堀が深いから危ないっていうのもあるけど、自分でやるしかないと思って。
―――ゴミ拾いされていますね。何だか、ありがとうございます。
佐々木 僕は、小さい個人商店がいっぱいできたら楽しそうだなと思います。車で行く店ではなく、散歩コースでいろいろ回れるような。
平島 あーそれ、すごく思う。
――具体的にどの辺りですか?
佐々木 希望は自分の家の近く(笑)。僕の工房から平島さんの工房も近いですし。商業施設は便利ですけど、買い物して帰ってくるだけではなく、いろいろな店が程よく点在している方が面白いのではないかと。
―――どんな店ですか?
佐々木 飲食でも雑貨屋でも、作家さんとかの店も。
柿崎 春日部は、良い意味であまり個性が無い感じがしていて。商業施設はどこにでもあって、大体こんな感じというのもありますが、そこの地域だからあるものとか、そこにあるから価値があるというものがあるといいと思うんです。ベッドタウンというだけではなく、今当たり前にあるものが、どれだけ価値があるものかと、住んでいる人たちが意識すれば良いのではと思います。
―――当たり前にあるもの……。田園風景も、店とか、いろいろな人たちも、全部大切ですね。
柿崎 自分に何ができるかと言うと、分からないんですけれど。人の個性が生きる場所だと思うので、面白い人が増えたら良いなと思います。
平島 春日部が魅力的だったら、ついでに僕の工房にも寄ってもらえるかなと(笑)。春日部を魅力的に感じてもらえるようになったらいいと思います。
平島鉄也「黒猫」
佐々木 以前、地下神殿に来たついでに僕の工房に来てくれたお客さんたちがいて。春日部にある観光資源と、いろいろつながることもあると思いました。
――市外から遊びに来てもらうために、1カ所にまとめるより点在したほうが良いでしょうか?
佐々木 循環したほうが良いと思う。1カ所に集めたらほかの場所と同じになります。
柿崎 都内と一緒になってしまいますね。
―――そうですね。まとめることに慣れてしまっているかもしれません。
佐々木 便利を求めすぎているのかもしれない。バラバラにあった方が面白く感じると思います。
柿崎 作家の作品を、ショーウインドーに集められた場所で見ていたかもしれないですけど、春日部は作家が生活して制作しているので、春日部に来ればそれを感じられる。できあがったものをただ見るだけでは無く、作家の息遣いが感じられる場所だと思います。生活して、考えて作っている。ただ展示するだけとは違う面白さだと思います。
―――並べられた作品を見るだけでなく、作家が生活しながら作品が生まれた場所も一緒に見て、感じられる場所ですね。
平島 「858-市」という、作家や作品を集めたイベントを年に一度開いていますが、意外と近くに作家さんがいるなあと実感しています。イベントの延長で方法はあるかもしれませんね。理想の春日部は人それぞれで、面白い考えがあると思うけど、一人一人が満足するようになっていけば、面白いまちになると思う。ゴミが無くなってさらに魅力的な店があれば、すごく楽しめる歩きたくなる場所になると思います。
―――皆さま、今日はありがとうございました。