(左から)新井泰典さん、三輪祐子さん、袴田徹さん
第5回は、春日部市内で事業を営むだけではなく、まちが元気になることにつながる、人を「集める」「動かす」「住む」取り組みを行っている3人に集まってもらい、未来の春日部について考えていく。
春日部経済新聞(春経) 皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。まずは皆さまの事業や肩書について教えてください。
三輪さん 市内で創業70年以上になる不動産店「三輪興産」の取締役の三輪祐子です。
袴田さん 医療的ケアが必要な児童や高齢者のデイサービス、病院を退院した方などの在宅生活の看護や介護を行う「リハビリコンパス」の代表取締役の袴田徹です。
新井さん 旧庄和町エリアを中心に事業をしている不動産店「新井ホーム」社長の新井泰典です。
春経 ありがとうございます。三輪さんの会社はもう70周年になるのですね。新井さんの会社も、創業自体は60年くらい前になりますよね。長年、地域に根差してきたのですね。
三輪さん 私は都内で就職してITエンジニアとして働いていたので、家業を継ぐつもりは全くなかったのですが、母が他界してしまい父が寂しそうで。一緒にいてあげたいなと思い、家業を継ぐ決心をしました。
春経 そうでしたか。袴田さん、新井さんは何かきっかけがありますか?
袴田さん 理学療法士として病院に勤めていたのですが、患者さんが退院した後の在宅リハビリなどのケアが足りないのではないか、と気が付いたのが起業のきっかけです。
新井さん 祖父が近隣の人たちと「庄和不動産」という不動産店をしていました。私は、当初は不動産に興味はなく、会社員として働いていました。祖父が他界した後の不動産の相続税の手続きで、せっかく祖父が所有していた不動産を手放さざるを得なくなったことが悔しくて、そこから学び始め、今に至ります。
幼少の頃の新井さん。手前の右側。「庄和不動産」の前で
春経 そんな裏話があったのですね!皆さん春日部で育ったと思いますが、何か小さい頃の思い出はありますか?
三輪さん 思い出といえば、もう今はないロビンソン百貨店ですね。ご飯食べにいくのも、遊びに行くのも、どんな思い出もロビンソンと共にありました。屋上でも遊んでいたし。地下のピザ屋さんにもよく行っていました。
新井さん 私は旧庄和町に住んでいたので、30分くらい自転車をこいでロビンソンに行っていました。憧れがあったので、わざわざ目指して行く場所でしたね。映画も見に行っていました。
三輪さん そうそう、若年層が目指して来る場所でしたよね。閉店してからは、ロビンソン通りの人通りもだいぶ変わりました。またいつか、春日部がわざわざ来てもらえる街になってほしいという思いがありますね。
新井さん 庄和町といえば、「大凧(だこ)あげまつり」がありますが、私が子どもの頃は、家業の一つとして農業にも力を入れていたので、5月の祭りの時期はちょうど田植えを手伝っていました。祭りに行けず、見に行っている人たちをうらやましく見ていました。
三輪さん あ!考えたことがなかったですが、農家さんは忙しい時期ですね。
新井さん 後は近所の菓子屋さんで、不良の人もいたので、何かドキドキしながら遊んでいた思い出もあります。
春経 (笑)何だか当時の様子が目に浮かびますね。
袴田さん 小さい頃に住んでいた地域の自治体では、小さいながら夏祭りがあり、老若男女、近所の人とのコミュニケーションもたくさんありました。現代って、小さな自治会のイベントが少なくてそういったコミュニケーションが希薄になりがちですよね。子どもの頃、上ってはいけない場所に上って、近所のおじさんに怒られた記憶がありますけど、そんなこと、今はあまりないですよね。

三輪さん 袴田さん、案外やんちゃな子どもだったのですね(笑)
袴田さん (笑)そんな、人とのつながりの原体験が原動力となって、街を歩くウオーキングイベントの開催や、ちょっと一息つける小さな図書館の運営につながっています。
春経 皆さんの子どもの頃を垣間見ることができて、ちょっとうれしいです。さて、皆さんは、地元を拠点として事業を営んでいらっしゃいますが、事業や活動がそのまままちの発展に寄与している印象を受けています。どのようなことをしているのか教えてください。
三輪さん 春日部駅東口側を中心に、空き家や空き店舗を新たに開業する人たちに紹介しています。
春経 三輪さんの家業そのままではありますが、何だか最近、いろいろな店ができてにぎわいが出てきているように思います。飲食店、パン店、クラフトビール店などバラエティー豊かで、店主さんたちがコラボとかもしていて、何だか元気。先ほどお話しされていた、わざわざ来てもらう街になりつつあるような…。

三輪さん 小さめの貸店舗の場合、紹介するのは30~40代で「これから起業します!」という方が多いですね。なぜかと言うと、古くからあるお店に加え、次の世代呼んでこないと、まちがガタガタになっちゃうと思うからです。例えば、今開催できている街でのイベントを始めとして、いろいろなものが継続できなくなってしまう。だから、できれば、次の世代の担い手になってくれそうな人や、周りの人や店とお付き合いをしてくれそうな人に、この街で出店してほしいと思っています。
春経 なるほど。ただお店を継続できるのかどうかだけではなく、ほかの店と仲良くしてくれそうな、地域にもなじみそうな人たちということですね。
三輪さん 不動産屋の立場からは、人を選ぶことしかできないのですが。実際、お店を開いた方々は、特にお願いをしていないのに、店同士でつながって、イベントをしたり、コラボしたりしています。お客さんに、他のお店も紹介していますね。もともと春日部に店を構えている店主さんたちは、そういった心意気みたいなのがあるのですが、新しく開業した人たちにも引き継がれているような感じがします。
春経 いいことですね!
三輪さん そうですね。あとは、初めての起業は大変なことも多いので、私たちでできることとしては、さまざまな専門家をつないで、サポートできる体制作りもしています。
春経 至れり尽くせりですね!
三輪さん もちろん家業のためでもありますから(笑)。地元の価値が下がらないようにと、焦りもあります。
春経 不動産つながりで、新井さん、いかがでしょうか?
新井さん 私は、買い取り再販がメインです。戸建てを買い取り、リノベーションして販売しています。新築にはなかなか手が届かないとしても、中古なら手が届きやすくなりますよね。それと私の中には「もったいない」という思いもあります。古くなっているとしてもせっかく家があるのだから、それをできるだけ生かしたい。そして、田舎のようなエリアを都会のようにするはなく、田舎の良さを生かして、適応していきたいと思っています。

春経 新井さんが手がけた物件で、あまり人が転入してこないエリアに、かなり久しぶりに転入者が来たとか。
新井さん 若い世代の転入で、周辺の方にとても喜んでいただけたようです。エリア的に、土地が広く取れるので、家に住むだけではなく、趣味を充実させたい人などにピッタリだから、そんな人に届くような家づくりやアプローチをします。最近は新築の平屋も手がけていますが、近年、家での時間を充実させたい人が増えたので、かなり需要があり、県外からも見にくる人もいますよ。
春経 県外からですか! 今後に期待ですね。お次は、袴田さんが取り組まれているウオーキングイベントについて教えてください。
袴田さん コロナ禍は、皆さんあまり運動ができなかったと思うのですが、当時、「このままだと要介護者が増えてしまう」という危機感が私の中に生まれました。それは防がなくてはならないと思った。「屋外なら一緒に運動できるのでは」と考え、2021年にウオーキングイベントを始めたのです。
春経 当時は、室内に人が集まる場所には行きにくかったですものね。どんな内容ですか?
袴田さん 屋外に皆さんに集まってもらい、一緒に30分程度筋トレや体操をします。その後は、皆さんに、思い思いの場所を歩いて帰ってください。という感じです。それと、年2回は一緒にウオーキングまで行うイベントも開いています。
袴田さんのウオーキングイベント
春経 今も継続しているのですか?
袴田さん そうです。最初は8人くらいしか集まらなかったですが、今では毎回40~50人の人が集まりますし、他の事業体から、「自分たちもやりたい」というお声を頂くので、ノウハウをお教えしています。現在、約15の事業体が実際に市内でそれぞれイベントを開いていますよ。
春経 そんなにたくさんの人たちが、一緒に運動して市内を歩く、ということをしているのですね。「動かす」だけではなく、健康にもつながる、ということですね!
袴田さん ウオーキングをしていて、商店街のシャッターが閉まっているとなんだか寂しく思います。要介護者の人や子ども連れの方々の行き場もなくなってしまう。だから別の取り組みとして、空き店舗を活用して武里に「暮らし図書館」という場所を作りました。
春経 まちが楽しくなれば歩くのも楽しくなりますね。たくさんのコミュニケーションが生まれているのでしょうね。素晴らしい!空き店舗活用の話が続いていますが、市内には結構空き家もあるのですよね?
新井さん 以前、春日部市の空き家の状況を調べてみました。市の資料で見たのですが、2018年には1000軒くらいありました。他の県と比べたらどうなのかは分かりませんが、結構多いなと驚きました。
春経 そうですね。たまに見かけます。
新井さん 東京など県外で就職すると、地元に戻ってこない人も多いですよね。誰も住んでいない実家がある場合は、たまに換気とかメンテナンスをしに来る人もいますけど。実は、明らかに空き家だと分かる家には泥棒が入りやすいのですよ。
春経 それは困りますね!
新井さん 庭の手入れとか、郵便受けとか、いろいろしっかり管理してあると空き家と分かりにくいかもしれませんが。ちゃんと管理していないと見た目が悪くなるだけではなく、泥棒も来やすい。草がボーボーに生えているとごみを捨てる人もいる。荒れている空き家が増えると治安の悪化にもつながります。それと、空き家はもったいないと思うので、少しでも空き家を減らして、魅力あるリノベ物件や新築物件などにして、できれば県外から転入してくれるような家を造っていけたらと思います。

春経 ぜひ、皆さまのお力で空き家や空き店舗を減らしてください。さて皆さま、何か今後の目標はありますか?
三輪さん 私の事業エリアでは、古い店舗が埋まってきたのですが、最近は築90年くらいの物件が出てきて。そのまま貸すことができないので、手を入れなければならなくて…。どのようにしていこうか考えています。そして、高架化工事で寂しい春日部駅東口周辺のにぎわいを作るための取り組みもしています。「ほこみち(歩行者利便増進道路)」という、道路交通法が改正されてできた新しい制度を使い、商店会に加盟している店が出店するイベント「夜市」を開いています。駅に向かう人や駅から帰宅する人たちが総菜を買ったり、ちょっと一杯飲んだりして、駅前が少しでもにぎわってくれたらと思っています。
「夜市」の様子
袴田さん 介護や児童のデイサービスって、結構、閉ざされた世界だと思うのです。例えば子どもは子ども、高齢者は高齢者、障害者は障害者、みたいに区切られて世間から隔絶されているというか。それを、ごちゃ混ぜにできる場所を作りたいですね。ごちゃ混ぜにすることで、今まで見たことのないすてきな反応が起きるのではないかなと期待しています。
春経 何だか気持ちが明るくなるアイデアですね! 一人暮らしの高齢者の方々や、障害者の方々も地域に溶け込みやすくなるといいです。最後に、未来の春日部がこうなったらいいな、という理想はありますか?
三輪さん 春日部といえば「○○だよね!」というユニークさや象徴的になる風景があったら良いな、と思います。私の中での象徴は、古利根川があり、古利根公園橋からタワーマンションが見える景色。田舎と都会のごちゃ混ぜ感。でも、それってなかなか伝わらないので。何か他にあるといいな、と。

新井さん 市内ではないのですが、私の好きな景色にインフィニティープールならぬ、「インフィニティー田んぼ」の景色がありまして…。田に囲まれた施設なのですが、そこの窓から見えるのは一面の田。季節により色が変わるのもまた良いのです。それは、そこにある良いものを生かしている風景。春日部でも、良いところや店などをつなぎつつも、春日部を都会にするのではなく、良さを生かした「意味のある田舎」みたいな感じにできたら、と思います。
三輪さん どこでも並木を植樹するときれいにえるという感じに近いですね。何かしらの手を入れると良いのかもしれない。おしゃれな田んぼって聞いたことないから、良いですね。
袴田さん 私も古利根川沿いとか好きですね。それと、ウオーキングの時、春日部は歩きやすいので、それも魅力の一つだと思います。

三輪さん 春日部って、全国トップクラスレベルで坂道がないそうですよ。
袴田さん そうなのですね!それも歩きやすさの一つですね。
三輪さん コミュニティー面の話をすると、もともとコミュニティーのつながりが強いまちだと思いますが、長く続く音楽イベントとかあるし、それを次の世代につないでいってほしいです。
春経 私たちも子どもの頃や若いときは街のことをほとんど知らなかったですよね。若い世代に、店や街の良さを伝えていくのも大切なことですね。皆さま、今日はありがとうございました。
取材協力=BORDER CAFE ROASTERY