現在人口23万人の春日部市。ベッドタウンとしての認知度が高いが、春日部にしか無いもの・誇れるものがある。人口減少や高齢化などの問題を抱えている事実も踏まえながら、春日部に住んでいる人、関わりが深い人の目を通して、さまざまな分野から春日部の魅力や可能性に目を向けていく。
3回目は、音楽イベントが多く行われ、「音楽」をまちの魅力の一つとしている春日部市在住で、音楽を生業(なりわい)としながらイベントなどにも参画している3人が、音楽との関わりや、音楽でまちを盛り上げていくことについて語り合う対談をお届けする。
(左から)松本けんじさん、川畑麻衣子さん、田川雅一さん
―――田川さんはドラマーで音楽スタジオ「コーリング」(春日部市下蛭田4)のオーナー、松本さんはギタリストで音楽教室「MAZ MUSIC SCHOOL」(中央1)のオーナー兼講師、川畑さんはクラリネット奏者と、皆さん春日部を中心として音楽を生業としていますが、春日部との関わりについて教えてください。
田川 春日部共栄高校に通っていました。高校1年の時、隣の席の同級生にドラムを買ったから遊びに来ないかと誘われて、あまり興味は無かったんですけど(笑)。スティック持たされて、音を出した瞬間から始まりましたね。聞いている時と違い、一打で「楽しい!」と思った。そこから今に至るんです。
―――生音に魅了されたのですね。
田川 バンドを組んで、都内などで活動していましたが、スタジオを持ちたいと思い始めました。作るとしたら、楽器をスタートさせた春日部にしようと思いました。これから音楽を始める人と触れ合いたいな、そして自分も一緒にやりたいって思って、2002(平成14)年5月にスタジオをオープンしたんです。
―――そうなのですね。松本さんはどうですか?
松本 僕は生まれも育ちも千葉県柏市です。高校時代のバンドのつながりで春日部のライブハウスに顔を出し始めて、春日部に知り合いが増えて、気付いたら住んでいました(笑)。楽器は中学2年の時。サッカー少年だったんですが、体を壊した時に兄がギターを貸してくれたので夏休みの間に弾き始めて。その後いろいろなバンドに関わって、気付いたら2015(平成27)年10月に春日部に教室を開いていました。
―――気付いたら、ですね(笑)。
川畑 私は春日部で育ちました。母親が自宅で音楽教室を開いていて、音楽に触れているのが当たり前で育ちました。当時から春日部は吹奏楽が盛んで、豊野中学校だったんですけど、クラリネットを始めました。そのままクラリネットで音楽の高校、音大に進み、パリに2年間留学しました。
―――パリですか!すごいですね!
川畑 ポップスとかもそうかもしれませんが、クラシックで食べていくのはなかなか…。生活の中に音楽が入り込んでいるヨーロッパと日本は違う。活動の場所が無いですし。春日部には吹奏楽をやっている人は多いのに続けない。長く続けられないのが残念だと思っていました。
―――せっかく始めたのに、もったいないですね。
川畑 そうですね。私は教えるという活動を元に自分の演奏活動をしていますが、生徒たちの活動の場所を広げて音楽ができる環境を作りたいと思い、地元のクラシックの振興会などに入って活動しています。
田川 僕は「コーリング」でドラムレッスンや高校の軽音楽部のコーチもしています。演奏活動は、都内や埼玉県内のライブハウスで月に2回ほどしています。
松本 僕は自分のバンドやほかのバンドのサポートなどもしています。市外だと都内や名古屋、大阪。市内だと駅前の和菓子屋さんのカフェスペースなどでアンプラグドライブもしています。春日部は、音楽やっている人の裾野が広いと思いましたが、演奏する場所が少ないなと感じていました。
―――やはり春日部は演奏する場が少ないのでしょうか。
松本 15年くらい前にオーストラリアのブリスベンに遊びに行ったのですが。商店街は夕方に閉まるのに、特定の金曜の夜は「late night」となって、ジャグリングしているおじさんがいたり、美容室でアンプラグドのライブをしていたりと、お祭りみたいにいなっていて、生演奏であふれていたんです。公園でパフォーマンスしているのも見たし、住んでいるまちが音楽であふれていて良いなと思いました。
―――楽しそうですね!春日部だと想像が付きませんけれど。
松本 僕は春日部の東口に住んでいて教室もあるし、何か盛り上がらないかなあと。歩いている時に、ふと音楽演奏があったりするとか…。以前から飲食店と音楽と絡めた小さなイベントをたくさんやってきました。今年は、自分の企画で野外イベントなど、何かしらできたらと思っています。
田川 春日部には、ロックやポップスなどの音楽や若い人たちにも音楽を楽しんでもらいたいというところに端を発したイベントがあって。「藤ロック」という音楽イベントで、出演したいロックバンドを募ります。幽霊部員ですけど、実行委員をしています(笑)。これまで3回行いましたが、認知度は上がってきていると思う。
川畑 まちを音楽で盛り上げたいということで、「かすかべ音楽祭」という音楽イベントの一環で、「まちかどコンサート」というのもあります。パリでは、教会に行けば必ずコンサートのチラシが置いてありました。プロアマ関係なく、地下鉄でも音楽演奏や、電車内でもアコーディオンやラッパ、クラリネットの演奏もあって、めちゃめちゃうまかったです(笑)。
―――電車内でアコーディオン!日本で見たことはないですね。
川畑 生活の中の芸術の位置付けが高くて良いなあと思いました。音楽大学の学費も桁違いに安いんです。日本は高いのにもかかわらず、音大を出ても仕事があるわけではないですよね。そもそもヨーロッパやアメリカは小学校の授業に、ピアノやクラリネットなど吹奏楽が組み込まれているんです。美術館もコンサートも18歳以下はタダだったりする。
―――タダ!!それだと若いころから気軽に芸術に親しむことができますね。
川畑 私は22歳で留学しましたが、13歳とかの子たちが天才のようにうまかった。学生に対しての芸術の間口が広いし、カルチャーショックでしたね。
田川 日本と全然違いますね~。スタジオやっていて感じることは、40~50歳くらいの人は恥ずかしそうにやって来るんです。深く話をしてみると、「いや~言われるんです」と。何を言われるのかを聞くと、「お前は何を目指しているの?」と言われるって言うんです。
川畑 あ~。
田川 好きだからやるんじゃないの? って。
川畑 理由はないですよね。
田川 何かを目指すのではなく、自由に音楽に触れてほしい。もっと音楽を身近に感じてもらって、スタジオはそういう場になれたらなと。
松本 僕ら3人は音楽を生業としていますけど、僕はこだわりなく気付いたら音楽になっていた。プロ志向ではない人のスタンスと変わらない。何を目標にしているのか分からない人に、こういう楽しさがあるよとか、こういうのもあるよとか、気付いてもらう手伝いをしていますね。
川畑 クラシックも全く同じですね。クラシックは堅いイメージがあるけど。極端に言えば、オーケストラのコンサートに着物を着ていかなければならないとか。全くそんなことはありません。ヨーロッパではピクニックで寝転がりながら聴いています。
―――良いですね。日本でのクラシックのイメージとは全然違いますね。
川畑 公園でござを敷いて、そこら辺でフルートを吹いているとか。もちろん良いホールはあるけどイメージが違います。日本では元々、雅楽が宮廷の音楽だったので、クラシックにも、そんなイメージになっているのか、入りにくいですよね。
―――クラシックは特に学校に行って必ず勉強しなきゃいけないイメージがありますね。
川畑 それは音楽の先生が駄目ですね(笑)。音楽って良いなって思わせてくれる先生は、一緒に歌ったり、体を動かしたりする。歌のテストとか、笛のテストとかだと嫌に決まっています。それが初めになると音楽が嫌いになってしまうし、続けたいとか思わないですよね。
―――笛のテスト、緊張したし、辛かったですね(笑)
川畑 コンサートにも行きたいと思わないですよね。クラシックのコンサートの観客は年齢層が高い。中高生も大学生もいません。10年後は聴く人がいなくなってしまうと思ってしまうくらい。誰でもクラシックを聴くことができる環境を増やしたくてカフェで演奏していますが、難しいと感じています。留学する時も、大人にそこまでやって何するの? と言われたりしました。
―――何かをするのは、何かを目指しているから、という雰囲気ありますね。
川畑 アマチュアの方が演奏を楽しめる「ブラスジャンボリー」という音楽イベントの講師をしたことがありますが、とても良いと思います。中学生の時の先輩が子どもを連れて参加していて、20年ぶりに楽器に触れたのを見てうれしかった。
―――音楽に触れる敷居が下がりそうですね。それぞれのジャンルについては、どんなイメージをお持ちですか?
田川 僕らの時代、ロックとかやっていたら不良といわれていたから(笑)。
松本 やっている本人たちはめちゃくちゃ真面目ですけどね(笑)。
川畑 めちゃくちゃストイックですよね(笑)。
田川 クラッシックは、音楽の楽しさよりも勉強のイメージがあるかも。音楽はそういうのではないと伝わるといい。でも結局、ハードロックでも譜面とか必要なんだよね。譜面を読めることで音楽の世界が広がったり、音符に息を吹き込んだりできる。でも最初からバサッと切られると…。
松本 今になって興味を持って勉強することも多いです。クラシックに関して、先ほどお話を聞いて、海外だとこんなにフランクなんだと知ってびっくりしました。音楽の授業で、手をたたくとか、その程度のことから感覚をつかんで楽しいなと思える機会があるといいなと思います。ドレミで何ができるかなとか遊びを消化する前に、ハ長調とかト音記号とか出てきちゃうから。
川畑 楽しくないですよね(笑)。
松本 小学校でハ長調とか何? とかなって、高校生の時に作曲した時に掘り下げて、小学校の時に習ったことにやっとつながった。自分で何かに気付いて興味を持たないと。芸術とかはやっぱり好きでやっているところを掘り下げていくこと。
―――興味を持つと学びたくなりますよね。川畑さんは、ほかのジャンルの音楽を聴いたりするんですか?
川畑 学生の時から「X」(エックス)が好きで。
―――一同(笑)
川畑 元々ジャンル分けするタイプではないので、とにかく好きです。吹奏楽の世界でもロックはやるし、「X」の人はクラシック畑の人がいたりとか、結構近いところがあったりすると思う。聴くのは好きで、車の中ではドカスカ鳴ってます(笑)
―――ドカスカ(笑)。意外です!
川畑 夏は「サザンオールスターズ」、冬は「X」ですね。自分のジャンルではないのでストレス解消になります。
―――春日部市は、「音楽のまち」というのを市の魅力の一つとしていますね。
田川 「藤ロック」とか「JazzDayかすかべ」とか、大きなイベントがありますね。でも僕自身はもっと気軽に楽器に触れる環境があったらなと思います。小規模でも楽しいと感じるように。大きいと尻込みしてしまう人もいるかもしれないので、僕も一緒に楽しむことを伝えられるようなものがあったらいいかな。
松本 僕はちょこちょこ市内で演奏させてもらったりしていて、まちに音楽が流れていることを認知していただいているかなと思うこともありますが、「あ、こんなに簡単にできるんだ」と感じてもらって、まちで音楽が流れていても免疫ができるというか。
―――パリやブリスベンのように。
松本 そうなれば、僕らが野外でロックを思いっきりやっても、それこそ「X」とか(笑)、誰も遠慮せずに参加できるんじゃないかなと。いろいろな編成や場所など、音楽目的ではない人でも、生演奏に触れられるような場所があるといいなと。そういうものの集合体として大きな音楽イベントも、より盛り上がるかなと。路上パフォーマンスとか立ち止まって見る人もすごく遠くから見ていることもありますね。
―――一同(笑)
松本 音を聴くこと自体に慣れていないこともあるのかなと。僕が生まれ育った柏ではあちこちで演奏していて、免疫が市民の人にできている気がして。春日部でも、今の活動を続けていけばいいのかなと思います。
川畑 プロアマ混合の「春日部フィルハーモニー」の演奏会があります。アマチュアの人もプロとやることで、聴きに来てくれる人を増やし、それこそ食べながらでもいいですが、聴いてもらえる環境を作ることで、クラッシックを身近に感じてもらえるようにしたいな。クラシックの垣根を壊したいというか、飲食店でもちょっとした演奏をして、良いなと思ってもらえれば身近に感じてもらえるかなと。「JazzDayかすかべ」や「藤ロック」みたいに、クラシックでも食べながらできたらいいなと。
松本 (笑)食べたいんじゃないの?
―――一同(爆笑)
田川 肩の力を抜いてね。
川畑 本当に寝っ転がって聴いてもらって良いんです。生活の一部になってほしいです。
田川 生活の一部になって、聴くことも、演奏することも当たり前になったらいい。今日はいいお話を聞けました。
松本 春日部が音楽であふれたら、僕たちの生徒も増えます(笑)。音楽が文化になってほしいですね。
―――ジャンルにかかわらず、文字通り音楽があふれるまちになって、楽しむ人も増えると良いですね。皆さん、今日はありがとうございました。
対談場所:音楽スタジオ「コーリング」