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春日部のそば店「長寿庵」が9カ月ぶり営業再開 おかみが亡き店主の思い継ぐ

天ぷら御前ともりそばセット

天ぷら御前ともりそばセット

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 そば店「長寿庵」(春日部市大衾、TEL 048-746-0038)が1月27日、休業から9カ月ぶりに営業を再開した。

かつ丼茶漬けとおそばセット(900円)

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 1990(平成2)年に埼玉県川口市で創業。春日部市に移転し、2003(平成15)年4月12日にオープンした。石臼でひいた北海道産ソバ粉を使った細麺のそばを提供する。「天ぷら御前ともりそばセット」(850円)をはじめ、サクサクの豚カツとご飯を冷たいカツオだしスープの中に入れた、夏季限定の「冷やしかつ丼」(800円)、冬季限定で温かいカツオだしスープの「かつ丼茶漬け」(800円)など、そば以外のメニューも人気を集める。

 石川県出身で店主の北口茂樹さんはそば店を開くため上京し、東京都葛飾区の「長寿庵」で5年ほど修業。妻の美絵さんは当時、長寿庵の近くに住んでいた。「お店の従業員の方々とも知り合いで、修業に来ていた主人が出前で来ることがあり、話をするようになった」と出会いを振り返る。

 2人は美絵さんが18歳の時に結婚。結婚を機に美絵さんも同店で約3年間修業した。美絵さんは「当時は若かった。好きという気持ちで一緒になり、修業することになった」と話す。その後、川口市で創業し10年営業した後、茂樹さんは春日部市への移転を決めた。

 「物件を探していた時に、春日部に居ぬき物件があることを知り、主人が私に相談もせずに決めてきた。主人は何でも相談せず決めていた。欲しい物がある時も、買ってからの事後報告だった」と美絵さん。「主人は昔かたぎで、家では厳格だった。私が口答えすると怒られることもあった」という。「その反面、男気があり、家族の誕生日や記念日を必ず覚えていて家族で祝うなど、内に優しさを秘めた人だった」とも。

 茂樹さんは店では営業の合間に客席に出て行き客とコミュニケーションを取ったり、客からメニューの提案があれば作ったりしていたという。2人は定休日以外休みを取ったこともなかったが、3人の子どもが巣立ってから旅行に行くようになったという。半日休みを取り、茂樹さんが旅行先や時間を決めるなど手はずを整えるなどしていた折、茂樹さんが下部胆管がんだということが発覚した。

 茂樹さんは、自身の入院中でも「お客さんに迷惑がかかるから店を閉めるな」と話していたため、美絵さんはできる限り店を開けていたという。昨年5月11日、2年間の闘病の末茂樹さんは53歳で亡くなった。

 美絵さんは「家でも店でもずっと一緒だった。子どもの教育方法などでけんかしたことはあるものの、一緒にいても嫌だと思ったことは一度もない。主人と結婚して本当に良かったと思う」とほほ笑む。

 茂樹さんから「お客さんに迷惑がかかるから、俺の葬式の翌日から店を開けてくれ」と言われていたものの、美絵さんは9カ月ほど家から出られず、仕事場である自宅1階の調理場にも入れなかった。ある時、美絵さんは孫の幼稚園の遊戯会に出席した。「孫も『じいじが死んで悲しい』と言っていたのに、お遊戯も歌も頑張っている。私は何をやっているのかと思い、店を再開することにした」という。

 現在、営業時間を短縮し、出前をやめてメニューを減らし、従業員に手伝ってもらいながら店を営業している。「再開するに当たり、ひっそりと店を開けたが、お客さまからは『待っていた』と言われてとてもうれしいし、本当にありがたい。主人も一生懸命やっていたので同じようにやって行きたい」と美絵さん。

 営業時間は11時~15時。木曜定休。

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