片手が不自由になった兄のために自作したPCキーボード向けのアイデアグッズをもっと役立ててもらおうと、春日部在住の作家が7月9日、一般向けに受注販売を開始した。
受注販売を開始したのは、春日部で造形教室を運営している平島鉄也さんと妻の由香さん。鉄也さんは造形作家で、由香さんはオブジェやイラストの制作・販売を手がける。
脳出血で片まひになってしまった兄に使ってもらおうと、由香さんが自作したのは、パソコンのキーの上に置いて使うウエート(重し)。任意のキーを押した状態でキープしてくれる。
兄が倒れたのは2022年9月。幸い命に別状はなかったが、左半身にまひが残ったという。治療後には転院して半年間、リハビリテーションの病院に入院した。由香さんは「コロナ禍で、半年間に会えたのは1度だけ。何かしてやりたいと強く思ったものの、何をしたらいいのか分からなかった」と振り返る。
退院後の復職がかなわなかったことから、まひがあっても働ける業種への転職を考え、パソコンを基礎から学ぶ兄の様子を見守る一方で、自身も片手では難しいキーを同時に押すという操作の存在に気付いた。「インターネットで調べると、同時に押すために道具を自作している片まひの人がいた。Windowsでは、固定キー機能を有効にすればキーを同時に押さなくても済むので、必ずしも必要ではないかもしれないが、兄の励ましにもなればと、キーを押さえるウエートを作ることにした」と話す。
作ったウエートは真ちゅう製。兄の愛犬をモチーフにイラストを描き、メッキコーティングなどを施した。側面には「下を向いていたら決して虹を見つけることはできない」という意味の、チャールズ・チャップリンの「you'll never find a rainbow if you're looking down.」という言葉を引用し刻印を入れた。
由香さんは「ウエートを使えば、キーが押されているかどうかが一目瞭然だが、なくてもいい物かもしれない。でも何かしたいという衝動に突き動かされた。兄はまひが残っていることで心も傷ついていると思うので、プレゼントしたらどう反応するかどきどきした」という。ウエートは兄の誕生日に当たる7月7日にプレゼントした。
由香さんによると、兄からは「愛犬をモチーフにしてくれてうれしい」「固定キー機能を使っていたもののマウスの操作ミスで、シフトキーを押し直すことになるなどストレスを感じていたため重宝している」と、喜んでもらえたという。
兄のほかにも必要としている人がいるかもしれないと、インターネットサイトiichi(いいち)を使い受注生産を始めることにした。
由香さんは「兄のことがあってから、まちで片まひの人に気付くようになり、心の中で応援するような気持ちになる。みんなが心だけでも、そっと寄り添って暮らせたらと思う」とほほ笑む。「Key Sticker Weight せぶん」として販売。価格は1万1,000円。仕様は兄へのプレゼントと同じで、好みの刻印を入れられる。