中央アジアのパン「ノン」を販売する「Silkroad Bakery SHER(シルクロードベーカリー シェル)」(春日部市増富)が6月27日、閉店する。
キルギス共和国出身のシェルゾット・サトバルディエフさんと妻で日本人のかおりさんが、2018年(平成30)年7月、自宅敷地内に店を開いた。母国では、祖父の代から日本でいうパン「ノン」職人のシェルゾットさんは12歳からノンを作り、日本でも複数のパン店でパン製造の修業をしていたが、元々ノンを製造販売する予定はなかったという。
シェルゾットさんは「2010(平成22)年に来日し、2014(平成26)年に春日部に移住してきたが、故郷のノンが食べたかった。植木鉢で作った手製のタンドール風オーブンでノンを焼き、同郷の友人たちに振る舞ったところ販売してほしいといわれ、通販を始めた。せっかくここで焼いているのだから近所の人にも食べてもらえたらと思い店を開いた」と振り返る。
中央アジアでは主食となるプレーンなノン「タンドゥールノン」や「チキンパイサムサ」などパン7品や、ケーキ、キルギス産の蜂蜜を販売。シェルゾットさんは「初めは日本の方に受け入れられるのか不安だった」と話す。
かおりさんは「昨年父親が突然亡くなった。いつ何があるか分からない。身近な人の死で、先のことを考えた。両親が、自分が社会人になる前にしてくれたことを思い出した。今子どもたちが10歳、7歳、5歳。子どもたちが大人になるまでに、親の役割をしたいと思った。語学力を付けるなど、今できることをして、いろいろなアドバンテージを付けてあげたいと思い、店を閉め家族でカナダに移住することを決めた」と話す。
閉店を決め、SNSで発表したところ、通販の注文は殺到し、店頭には行列ができたという。かおりさんは「皆さんが『新天地で頑張って』『本場のノンが食べられるというのは貴重な体験だった』など優しいコメントをくれた。これまで通販だけの利用で、初めて店頭まで来てくれた人もいた」と言う。
かおりさんは「私は横浜市出身。導かれたように春日部に来た。来るべくして来た。運命だと思う。受け入れてもらえて喜んでもらえて、たくさん温かいコメントももらえてうれしい。先のことは分からないが、皆さんの応援メッセージを胸に新天地で頑張りたい」と笑顔を見せる。
日曜のみの営業で、最終日となる27日の営業時間は10時~16時。通販は終了した。